(消失後・キョンハル)
時々不意に痛む。
ないはずの傷。
痛くないはずの刺し傷。
でも、痛い。
脳が勝手に痛みを作る。
ええい、ちくしょう。
俺はマゾじゃない自信があるのに。
…それはきっと傷の痛みじゃない。
あそこに、あの背中がなかった時の痛み。
「みくるちゃん!お茶頂戴!あっつーいやつ!」
相変わらず馬鹿みたいに元気が有り余っている。
目を開けばそこにいる。
瞬きしても消えない。
こっちを見て、「誰?」なんて聞いてこない。
憶えていない、なんて言わせない。
あれだけ面倒な地上絵を手伝わせておきながら、忘れてるのはさすがに酷くないか?ハルヒ。
SOS団団長、涼宮ハルヒがそこにいる。
たとえ、少し目を逸らしたとしても、消えないんだ。
「そんなに涼宮さんが魅力的ですか?」
1人で詰め碁をやっていたはずの古泉からの声。
あまりに馬鹿馬鹿しすぎるだろ、その問いは。
「何を根拠に」
傍迷惑で俺様なハルヒのどこが魅力的だと。
口を開かなければ美少女だが、その側には口を開いても一挙一動全て完璧な朝比奈さんがいるというのに。
「あなたがそんなにも涼宮さんを見詰めているからですよ。まさか、お気づきではない、とはいいませんよね?」
「…そんな事はない」
そう口にしながらも、脳内で自分を振り返ってみる。
どんな顔をしていたのかなどわからないが…きっと、真剣に見ていた。
それを思うとどうかと思うものだ…。
「…そんなに見詰めなくとも、涼宮さんはどこにも行きませんよ?」
不意に降ってきた言葉に、古泉へと視線をやる。
「そんなに驚かなくとも…」
肩をくすめて、全てわかったような顔をしやがって。
「…わかってはいませんよ、あなたの気持ちはね。ただ、涼宮さんはあなたに夢中ですから」
夢中だと?
…気色悪い言い方するな。
「あなたの気持ちを離さないためなら、夏休みのような事もやってのけると思いますが…」
そうして思い出すのは繰り返された2週間…。
もっとも、憶えているのは繰り返されたらしい、ということで、2週間分の記憶しかないが…。
またあんな事をされてたまるか…。
朝比奈さんもどれほど泣いた事か…。
「…あなたも素直じゃありませんね」
…だからその笑みをやめろと言ってる。
「仕方がないじゃないですか。正直なコメントです。ともかく、涼宮さんがいなくなる事は…」
「…あったとしても、必ず取り戻してやる…」
目の前から涼宮ハルヒがいなくなった衝撃は、忘れられないから。
「…ホント、お似合いだと思いますよ…」
そんな古泉の声を、俺は聞こえない振りをした。
熨斗をつけてくれてやる、とは口にしようなんて思いもしなかった。
「あなたと涼宮さんの仲を、羨ましく思いますよ」
たまには、古泉の声に反論してやらないのも優しさだ。
…そう言う事にしておく事にした。
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個人的に「enviable position」の続きのイメージで書きました