一言予告 (キョンハル)



「キョン」
「なんだ」
「いいからこっちを向きなさいよ」
「そっちを向かなきゃできないことなのか…」

「よ」と続くはずの言葉が、そこで途切れる。

「いった…」
次の瞬間には唇を押さえて痛がるハルヒを見ながら、キョンはどこか呆然と椅子に腰掛けたままでいた。

「お前な…」
ハルヒとぶつかったはずの唇は痛いが、それよりもまずキョンは口を開く。

「なによっ!」
「行動する前に一言くらい言えないのか?」
嘆息するキョンに、
「何をどう言えばいいって言うのよ」
ハルヒは頬を膨らませた。

「…なんでも言い方はあるだろ」
答えつつ、キョンは浮かんできた台詞に小さく眉を顰める。

ゲームの定番の台詞。
それをハルヒが言うとも思えないし、現実で使うのに相応しいかもわからない。

「お前、長門じゃあるまいし…」
そうして頭を抱えたキョンに、
「有希がどうしたって?」
ハルヒはずいっと距離を近づけた。

「行動する前に何か一言言えって言ったんだ。突然行動されりゃこっちも驚く…」
そしてあまりに大きなカマドウマを思い出した瞬間、
「有希と何かあったの」
ネクタイを掴まれ、額がぶつかる。

「いってーな、なにす…」
「あたしの質問に答えなさいよ!」
「は?!」
額を押さえて顔を覗き込めば、どこか不安に揺れる瞳。

「なぁ、ハルヒ」
「なに」
「勘違いしてないか?」
肩の力を抜いて、キョンはハルヒに問いかけた。

「何がよ」
「まぁ、長門がしたって行動はあれなんだが…」
本当の事を話すわけには当然いかず、しかし咄嗟にも思い浮かばなかったため、キョンはそれを脳内の隅に放り出す。

「長門はあくまでSOS団の団員だろ?」
「当たり前じゃない」
「お前とは違う」
「あたしは団長だもの」
「そうじゃなくて」
次に続く言葉を封印して、キョンはハルヒの反応を待った。

きっと、口にすれば意外とこの団長は赤くなる。

「そ、そりゃそうよ!最初にしてきたのはキョンなんだから!」
「そりゃそうだ」
「あの時だって、いきなりなんだからお返しなんだからいいの!」
「あの時って?」
「夜のグラウンドで…!」
そう声をあげて、ハルヒは小さく硬直した。

「な、なんでもない!!」
「気になるだろ」
「人の夢にいちいち干渉するなって言ったのよ!」
微かに頬を赤くして、そっぽを向く。

その様子が面白いようで、可愛らしくて

「と、とにかく!行動する前に一言言えって事よ!あくまで許可を出すのはあたしなんだから」
そうして威張るように胸を張ったハルヒに、
「それじゃ、おれも」
キョンはぴったりとつくように立ち上がった。

「な、なによっ」
あまりの近さに、ハルヒが身を更に逸らす。

「毎回ぶつけるのは痛いからな、俺もお前も。一言言ってくれ。『お返し』をするから」
そうして口元に笑みを浮かべたキョンに、
「な…な?!」
ハルヒは耳まで真っ赤に染めた。


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