not equals sign (大学生設定・キョンハル)



「ねぇ、キョン!やっぱりこれは調査すべきよねっ!」
元気な声、大きく輝く瞳。
これを悪いとは言わん。
俺だって、言うつもりはない。
…ただ、容姿に限って言うのであれば、であるが…。

「何をだ」
「決まってるじゃない!古泉君に彼女がいるかもー、なんて大スクープだわ!」
有無を言わさず襟に伸びてきた手を何とか回避する術は、高校時代に身につけたものの…。

「次、古泉君空き時間なんですって!これはチャンスよ!」
「古泉が空き時間だろうと、俺らは…」
「この講義より大事な事よ!SOS団団員に関わるんだから!」

やっぱり有無を言わさないところは、大学に入った今も変わらないらしい。

「出席頼む」
最早クラスメイトにそう頼むしか方法はなく。

「キョン!急ぎなさーい!」
すばやく教室の入り口にいたハルヒを追いかけて、次の講義の教室を抜け出した瞬間、始業のチャイムが鳴り響いた。



「…あのなぁ、次必修だぞ」
そう文句を言ったところで、このハルヒが意見を変えるわけもないが、一応の良心と言っておこう。
…あくまで建前である事は重々承知の上である。

「いいのよ、一回くらい休んだところで何の支障もないわ」
そう言い切ってしまえるのは、ハルヒの頭がいいからに過ぎない。
…奇跡的に合格して、たまたま同じ学科に入った俺をお前と同じに設定しないでくれ…。

しかし、堂々講義をサボれるのは悪い気はしない。
古泉をつける、という状況もまぁ悪くはない。

「さーて、行くわよー!」
意気込んで歩き出したハルヒは、どこへ行くのだろうかと思いつつ、俺は後を追うことにした。



「噂によれば、ここに現れるらしいわよー」
どこの誰からの忠告だ。

「有希からに決まってるじゃない。あの子、この話したら一発でここを教えてくれたわよ」
ハルヒが長門をどう見ているかわからないが、長門の意見なら間違いがあるはずがなく。

「で、それを見てどうするんだ」
「単純に気になるだけよ。古泉君、モテそうだもの。どんな子を選ぶのかしらねぇ」
なんともワクワクと、見つからないように隠れながらカフェを見守るハルヒに、ため息をつくしかなかった。



「ほら、現れたわよっ!」
そうして現れた古泉は確かに女連れで。

「わー、美人ねぇ。みくるちゃんのような萌には欠けるけど」
ハルヒ内の女子の基準は朝比奈さんにあるのだろうか。
萌がなければいけないのか…?

そう考えた一瞬のうちに、
「…やっぱりあんたはどこか間抜け面よね」
ハルヒによる嘆息。

余計なお世話だ。

「あんたって、みくるちゃんみたいなのがホントはタイプだったんだっけ?」
朝比奈さんは可愛いと思うがな、誰もそうは言ってないだろう。

「別にいいのよ。あんたの好みなんか聞いてないから」
聞けよ、と思うものの言っても聞いてくれるはずもなく。
ツンツン状態のハルヒに言うのはそれこそ時間の無駄な気がしなくもない。

「何話してるのかしら」
「ここから聞こえるわけがないだろ」
「ちょっと、聞いてきなさいよ」
「無茶を言うな!」
しかし、押し出されてしまった以上隠れる事もできず。
その上声もあげて古泉が気づかないはずもなく。

「やぁ、こんなところで会うとは…。おや、涼宮さんもご一緒でしたか?」
爽やかーな笑みを浮かべて、古泉がこちらに手を振ってきた。

特に気にかけた様子も、見られてまずかったわけでもないようだし、これでは隠れていた意味がない。

「じゃあ、また後で」
「ええ、また」
目の前で華麗に別れを告げる彼女に俺も軽く頭を下げる。
邪魔をして悪かったからな。

「空き時間ですか?お邪魔でなければこちらで一緒にお茶でも」
そうして古泉が示した席に、ハルヒはあっさりと腰を下ろして。

「ねぇ、今の人古泉君の彼女?!」
…相変わらず遠慮のない問い。
それに対する返答も高校時代から変わらなくて、古泉は肩をくすめる。
それが妙に似合うのは、古泉が古泉である故だろうか。

「残念ながら、違いますよ。たまたま授業で発表するペアに組まされてしまいましてね」
苦笑を2人がかりで見れば、
「本当です。どこからそういう噂になってしまったのかは知りませんが…」
古泉は手を振って否定した。

おそらく、本当だろう。

「なんだ。つまらないわねぇ」
そんなハルヒの台詞は古泉にとっては脅威に違いない。
「ご期待させてしまったのなら、申し訳ありません」
苦笑になにか別のものが混じってるぞ、古泉。

「古泉君ってモテるでしょ?」
ハルヒの瞳が輝き、何か情報を得ようとする。
…何がそんなに楽しいのやら…

だというのに、ハルヒの視線を受けていたはずの古泉の視線がこちらに向き…さらには笑みを形作る。
何のようだ、突然気色悪い。

「いえ、失礼しました。モテるという事はありませんよ。声をかけられたりするわけじゃありませんしね」
「じゃあ、古泉君はどんな子がタイプなの?今まで付き合ってるって聞いた事なかったし。キョンみたく、みくるちゃんみたいなのがタイプ?」
突然話題を降ってきたハルヒの視線はどこか冷たい。

だから、何やら誤解をしてないか?

「確かに、朝比奈さんは可愛らしいですが」
かと言って古泉。
お前が朝比奈さんを語るのもなにやら憎らしい。

「彼女はSOS団のマスコットですしね」
笑みを浮かべ、細められた目元が俺とハルヒを向く。

人の心を読むような笑顔。

「モテるからと言って、そう口に出してきた人が僕を好きなわけでもありませんし。タイプの人イコールで恋人にしたいってわけでもありませんからね」
やはり、それはすべてを知っている笑みで。

「せっかく初の古泉君の熱愛報道だと思ったのに」 残念がるハルヒを目の端に捉えつつ、
「余計なお世話をしてしまいましたか?」
古泉に囁かれる。

耳に息をかけるな、気持ち悪い。

「なんとも言ってないだろ」
「ですが、涼宮さんのご機嫌を損ねるのも問題でしてね。あのバイトはないに越した事はないのですよ」
その笑みには同調する、と言っておこう。

ただ、
「人の心を読むなよ」
そうは思う。

「あれだけわかりやすいのです。突っ込まずにはいられませんよ。涼宮さんああ口にしたところで僕を異性として見てるわけではありませんし、あなたのタイプが万が一朝比奈さんのような人でも…あなたにとっては関係がありませんからね」
そうしてなんとも爽やかに笑みを浮かべる古泉は、やはりその様子が古泉らしいのだが…。

「その笑みはやめろ」
「いいじゃありませんか。祝福したいのですよ、僕としましては」
たちの悪さは変わらないようだ。

「余計なお世話だ」
「では、あなたから涼宮さんに伝えますか?」
「誰がやるか」
「そうですか。それは残念です」

そうして浮かべられた笑みに、俺は嘆息するほかなかった気がする。


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