記録更新 (キョンハル前提・キョン&谷口&国木田)



「うわっ、あいつ見る目ねぇなぁ」
学校の外階段から見える、中庭の光景。

「どうしたの?谷口」
「見ろよ、あれ。今度は何時間かなぁ」
手すりに腕と顎を乗せて中庭を見ている谷口の視線を追い、国木田は納得したように頷いた。

ハルヒと、彼女と対峙している1人の男子生徒。
人目につきにくい場所で、雰囲気から言っても告白シーンに出くわしてしまったと考えるべきだろう。

「涼宮さんと…誰かな?見覚えないけど」
「雰囲気から言って後輩じゃないか?そうじゃなければあの涼宮に告ろうなんて奇妙な輩はいねーだろうよ」
そうして普段のハルヒの言動を思い出したらしい谷口の表情を視界の端に残しつつ、国木田はハルヒたちの方へと視線を向けた。

「でも、涼宮さん美人だし、才色兼備の具体例だと思うんだけどな」
「でも、あの中身がダメなんだよ。知ってるか?過去の恋人最短記録!ったく、断らないならきっちり付き合えばいいんだ。かわいそうになぁ、あの後輩も…。どこがいいんだか知らないが」
ハルヒの中学時代を知る谷口は、この先後輩の辿る道を思い、義理程度に心の中で合掌した。

そうしてあまりにかわいそうになってきた空想上の後輩に涙が浮かびそうになった時、
「…何してるんだ?お前ら」
「おや、奇遇ですね」
後ろから聞こえてきた声に、2人は揃って振り返る。

「キョンたちもね」
「たまたま購買で彼と会いましてね」
笑顔を浮かべた古泉の手にある飲み物を見つけて、国木田は納得する。

「いいなぁ、僕も谷口に付き合ってないで行けばよかった」
「何をだ」
大きく嘆息した国木田にキョンが問いかけた瞬間、谷口が大きな動作で振り返った。

「お前にならわかるんじゃねぇか?見ろよ、あれ」
キョンを引き摺るようにして手すりまで連れて行く。

「あいつの事だからきっと断らねぇんだぜ。中学時代がそうだったからな」
キョンの視線がハルヒたちを捕らえた事を確認して、谷口は熱弁を振るった。
自他共に認めるほど、谷口はこの手の話題には強い。
…それが誇れるか否かは別であるが…。

「最長どれくらいだと思う?過去の事例から考えても、涼宮の恋人は数ヶ月すら持たないんだろうなぁ。哀れと言うかなんというか…信じられんよな?キョン」
自分の言葉に同意をもらえると思い、谷口がキョンのほうへと体をむけ。

「…どうした?キョン」
まったく動く様子なくハルヒたちを見続けるキョンに、谷口は恐る恐る問いかけた。

「…どうかされましたか?」
そんなキョンの横顔に対して、古泉が問いかける。

「お前こそ、大丈夫なのか?」
「…ええ、今のところ。ですが、これ以上は時間の問題かと思いますが?あまりにしつこくされれば、涼宮さんも不快に思われるかもしれませんし…特に、あなたがただ黙ってみていたと知れれば、一気に爆発するでしょうね」
楽しんでいるかのような、それでいて困った自体に苦笑しているかのような笑みを古泉に向けられ、キョンの眉間に皺がよる。

「…このままばれずにいればいいのか?」
「…このままを良しとしますか?」
明らかな反語を含んで古泉が問いかけた。

「僕としても、涼宮さんが限度を迎える前にあなたに行動を起こしていただきたいと思っていますよ」
そうして柔らかく笑みを浮かべた古泉に、
「…やれやれ」
キョンは再び大きく嘆息する。

「…あとの面倒ごとはお前がやれよ」
「ええ、それくらいならいくらでも」
そうしてキョンが立ち去ろうとして、振り返った。

「谷口」
「な、なんだ?」
目の前で繰り広げられた会話の意味がさっぱり掴めず、ただ首を傾げていた時に声をかけられ、谷口は動揺する。

「お前の中の記録を書き換えとけ。最短は書き換えるのは不可能だが…間違えなく最長記録は書き換えられるぞ」
それだけ言い切り、キョンは外階段を下りていった。

その音はどこか面倒くさそうで、けれどはっきりと確実に目的地へと近づいていく。

あっという間に、その姿が今まで自分達が見ていた光景の中に登場して。

「は…?」
谷口が驚く間に、ハルヒと男子生徒の間に割って入ってしまう。

男子生徒に片手を挙げ、キョンが何か断りを入れているのだろう。
そして、そのままハルヒの手を取った。

「え…?」
眼下に広がる光景が信じられなくて谷口はただ呆然と見守るばかりで。

「なんだか涼宮さん嬉しそうだね」
「ええ、そうですね」
内容を理解した者、すでに事実を認識している者の言葉が、谷口の脳内に留まる事無くスルーされた。


* back *


キョンハル話なのに、メインがなにやら谷口国木田コンビ…。
結構この2人のコンビ好きなもので(笑)