(『酔狂』のハルヒ視点)
何をやったら楽しいか。
それは頭の中に一杯あって、考えていなくても浮かんでくるようで、無意識のうちに考え続ける。
退屈しないこと、面白いこと。
どうやったら注目を集めるか、楽しめるか。
やりたい事をやるにはどうすればいいか。
「さーて、できたわよっ!」
最後に目の前に完成したものを確認してから、あたしは2人に声をかけた。
「何を企んでる」
古泉君とやっていたオセロの手を止めて、キョンが画面を覗きにくる。
「企んでるなんて失礼ね。ほら、見なさいよ」
彼にしっかりと見てもらうべく席を離れて…あ、オセロはキョンが今日も勝ってるみたい。
意味もなく、ちょっと嬉しい。
「もしかしなくとも、これは文化祭当日に行う事ですか?」
「さっすが古泉君!キョンと違って飲み込みが早くて助かるわ!」
「お褒めに預かり光栄です」
キョンと一緒にパソコンの画面を覗き込んでる古泉君の意見に、笑みがこぼれたのを自覚した。
SOS団の団員たるものこうでなくっちゃ。
でも、ちゃんとみんなに説明するために準備もしたし、あたしはあたしで団長らしいことも時にはしないとね。
実行案は作った。
あとはそのための準備をして…。
「こら、そこ!おしゃべりしてないの!ちゃんと読んだ?」
なにやら話し声が聞こえた気がしたほうへ声をかける。
せっかくあたしが作ったって言うのに、真面目に読まないなんて信じられない!
そうしてみくるちゃんの衣装を見つつキョンを見れば、一通り見終わってもよさそうなもので。
「ねぇ、キョンはどれがいいと思う?」
画面に向いている目はもう必要ないでしょ?
「メイドもナースもやっちゃったし、次はなにかしらね?ゴスロリもやっちゃったし」
本当に着せ替え甲斐のあるみくるちゃんの姿をあたしも思い浮かべる。
今までもとーっても似合ってたし、次も似合うに決まってる。
そうしてもう一度意見を聞こうとして。
「…やっぱり間抜け面」
一気につまらなくなる。
何よ、その顔は。
「お前が聞いたんだろうが」
僅かにキョンも表情を歪めて…次の反応が怖くなる。
押してもいいの?
引くべき?
…モヤモヤして、わかんない。
「あたしとお揃いにしようと思うのよ。この案どう?古泉君」
咄嗟に場を繕うように古泉君にも問いかける。
「ええ、とてもいいと思いますよ」
笑って答えてくれた古泉君を見つつ、キョンの様子を伺えば不快そうな表情は古泉君へと向いていて…。
「あなたもいいと思いますよね」
どこかほっとしたのも束の間、キョンの視線がこちらに戻ってきた。
息が詰まるような数瞬。
「ああ、悪くないんじゃないか?チャイナ服だって似合ってたしな。ただ、あんまりにも奇抜なものはやめろよ」
その一言に、心臓が跳ねた気がした。
『似合う』って、言われた?
「なによ、親父くさい」
赤くなりそうな顔と空気を誤魔化したくて、咄嗟に出てきた言葉はおかしくないだろうか?
そう思うくらいこっちは平静を装うとしてるのに。
「目立つ事を自覚しろと言ってるんだ。変なやつらに目をつけられても知らんぞ」
…反則だと思う。
絶対にずるい。
気にしてくれてる言葉なんだと、期待したくなる。
…そんな事、ないかもしれないのに…。
「…わかったわ。頭の端に入れておく」
過剰に期待したくなくて、それが期待だけで終わっちゃった時が怖いから。
服を選ぶ振りをして、視線を逸らす。
「端かよ」
キョンの不満そうな声が聞こえてくるけど、ど真ん中を占めてる、なんて言えないから。
「だめね、決まんないわ。今までやっちゃったものしかこっちにしないし…。買い物行くわよ、買い物!今度の日曜ね!」
混乱しかけた頭をすっきりさせるためにも、ここは買い物に行くに限るわ!
楽しいし、目的は果たせるし、一石二鳥!
それに、何より。
「いいわね、キョン!」
「好きにしろ。付き合うから」
そうやって構ってくれる声が聞けるから。
今のあたしにとって、その言葉がどれ程嬉しいかなんて、知らないでしょ?
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以前書いた「酔狂」という作品のハルヒ視点です
ハルヒが女の子らしいというか、乙女と言うか、悩んじゃってるというか、ちょっと臆病めというか…
ハルヒっぽくないぞ!って指摘を受けそうなのですが…。
恋しちゃってるんですって事で…大きな心で受け止めていただけると…。
キョンへ片恋風です