366日誕生日 (キョンハル前提SOS団)



それはある晴れた日の出来事だった。
夏の暑さも過ぎ、秋風が心地よく感じられるようになった穏やかな放課後。

しかし。

「さあ、パーティーをやるわよ!」
それを穏やかにさせてくれないのが、涼宮ハルヒが涼宮ハルヒである所以と言ってもいいのかもしれなかった。



「今度は何だ」
いつもの事だとわかりつつ、一応聞くのが俺の役目と言うもの。

それを見て、長机からゲームを片付け始める古泉に、ハルヒ用のお茶を用意する朝比奈さんに、相変わらず分厚いわけのわからない本を読み続ける長門、とあまりに役割分担が出来すぎてるぞ、SOS団。
それほどまでに日常と化した日々を楽しんでいいのやらどうやら。

ともかく、今日はせめて少しでも穏やかであれ、と微塵も役に立たない祈りを込めてハルヒの様子を伺えば、見た目以上に重い荷物を押し付けられた。

「なんだ、これは」
「さっき言ったでしょ?パーティーをするのよ?それに必要なものに決まってるじゃない」
役割を果たしたと言わんばかりに、ハルヒはいつもの席へと腰掛ける。

奇想天外なハルヒの脳内を推測できるはずもなく、ハルヒの考えるパーティー必需品とやらは何かと思い恐る恐る押し付けられた紙袋を覗き込めば、少々意外なことに俺の考えと珍しく一致したものが顔を覗かせている。

様々な菓子に飲み物、軽食なんてのもあるな。

「食堂に行ったら、おばちゃんたちがあまりもの格安で売ってくれたのよ」
なるほど、常連になるとそういう融通が利くのか。
しかもいつも最後のほうに滑り込んでくる生徒となれば、おばちゃんたちの方も嫌でもインパクトに残らざるを得ないに決まっている。

「そんな事言うならキョンにはあげないから」
「別に批判したわけじゃない。褒めてんだぞ」
ある意味、な。

「ふーん…じゃあいいわ」
納得してくれたのかはわからないがハルヒが納得してくれ、俺もこの手にある食料にはありつけるようだとわかったその時。

「それにしても涼宮さん。何のパーティーなのですか?今日は誰かの誕生日だとは知りませんでしたので、プレゼントも用意していないのですが…」
団員全員の疑問を、古泉が口にした。

そういえば理由を聞いていなかったな。
キリストや仏陀の誕生日にはまだ程遠かろう。
次はあれか?
ラーやゼウスの誕生日でも祝うのか?
ここまできたら天照大神も祝ってやらねば悪かろう。
…神話の世界に誕生日の概念があるのかは知らんが…。

けれど、ハルヒの反応は俺の斜め上を行く事はなかった。

「特に理由はないわね」
「は?」
「何よ。あたしが理由もなく団員とパーティーしようと思っちゃいけないの?」
逆にそれが驚きで、下がってしまったハルヒの周りの温度を戻す事を咄嗟に考えられないくらいだ。

とりあえず古泉に振ってみれば、
「パーティーといえば、何かお祝い事のイメージがありますからね。そう考えてもおかしくはないと思いますが…」
嬉しいかな哀しいかな、古泉のフォローがきっちり入ったようだ。
ヤツの目的は俺のフォローではなく、ハルヒを不機嫌にさせないことであるが、
「まぁ、安直なキョンの思考じゃそうよね」
なんだか古泉に貸しを作ってしまったようで気分が悪い。

これは早々に何か返さねば…。

「おや、僕としてはあなたによって涼宮さんに機嫌よく過ごしていただければ何の文句もないのですが」
「なんで俺がそんな事をしてやらにゃならん。それはお前の役目だろ」
「いえ、僕はあくまで涼宮さんの機嫌が変わったか否かを知ることができるに過ぎませんから」
「副団長に一任してやるよ」
面倒な事を背負うつもりはない。

なのに古泉はニヤニヤと笑いやがって、
「そういう『言葉』が返ってくるのは予想の範囲内です。これからもよろしくお願いします」
結局こっちに振りなおしてくる。

面倒な事はする気はないのだともう一度押し付けようとして。

「やっぱり会には何か明確な目的が必要なのかしら?」
しばらく考え込んでいたらしいハルヒの一言に、その場の意識がそちらへと移行した。

仕方ないから、この話題は保留にしておいてやるとしよう。

「明確な目的?」
「そう。アンタが言ったんじゃない。パーティーといえばお祝い事。つまり目的があるから開くんならまぁ確かに妥当だし…」
「どっかにいる誕生日のやつでも捕まえてくるか?」
パーティーを開くと言えば理由付けはクリスマスか誕生日くらいしか思い浮かばん。
ハルヒの能力なら誕生日のヤツを見つけ出す事くらいわけないだろうし、それくらいなら世界にも害はないだろう。
連れて来られたやつは迷惑この上ないだろうが。

でも、ハルヒがSOS団やその周囲の人間以外の人間をこの場に加えてまで祝う図が思い浮かばなくて、却下になるだろうとおもったのだが。

「そうね、それがいいわ!!誰かの誕生日よ!」
「はあ?!」
次の瞬間、ハルヒの表情は異様なまでに輝いていた。

しかし、ここで絆されるわけにはいかないのだ。
いくらハルヒが楽しそうとはいえ、一般の罪もない人を巻き込むのに俺が賛成するわけには…!

「SOS団はいずれ世界に進出するの。そう考えれば全ての人がSOS団の団員ってわけだし、今日誕生日の人もいるわよね。団長たるあたしが祝うのは当然だわ」
「で、どうなさるおつもりですか?」
煽るな古泉、と思うもののきっかけを作ったのは今回は間違いなく俺だろう。

「かと言って、全員を招くわけには行かないし、招ける人だけ団長と一緒なんで贔屓だもの。とりあえずこの5人で誕生日を祝いながらパーティーにしましょ。これならキョンも納得でしょ?」
「ああ、まぁ…」
誰も巻き込む事無く、そして俺の当初の疑問でもあったパーティーの理由も一応名目がついた。
文句など、出るはずもない。

ただ、この5人で楽しもうというのならむしろ歓迎してやる。
ハルヒにしてはマシな提案だ。
何の足しにもならんが、祝われて不快な人もそうはいないだろうからな。

「365日が誕生日だな」
「違うわ、366日が誕生日なの。毎日こうして祝えないけど、たまにはいいわね。キョンにしては名案だわ」
「そうかい」
まぁ、ハルヒの機嫌もよろしいし、よしとしよう。

そう思ったのに。

「ええ、涼宮さんの機嫌もよろしいようですし。先ほどの貸しはチャラという事で。やはり涼宮さんにはあなたですね」
「だから、どうしてそうなる」
「そういう反応が返ってくるあなた方だからこそ、馬に蹴られさえしなければ傍から見るのも楽しいものです」
水を差すやつが1人。

そういえばさっきこいつに押し付けられたものを保留にしてたな。

なのに…。

「ほら、ふたりとも!乾杯するわよ、乾杯!!」
ハルヒが満面の笑みでコップを差し出すもんだから。

結局俺は、また1つ事柄を保留にする事になった。
保留した結果が何に繋がるかなんてわかりはしないが、まぁ最悪の事態にはならないだろう。

「じゃあ、今日誕生日の人に乾杯!」

こうしてパーティーは始まった。
まぁ、どこにいるかわからんし、諸君が目撃した時この謎のパーティーが何回目になっているのかはわからないが。
見ず知らずの人の誕生日を祝おうなどと、ハルヒにしては殊勝な事を考えたので、目撃したり、噂を聞いたら祝われてやってくれ。

誕生日おめでとう、と。


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タイトルそのまま、お誕生日ネタです
奏さんがお誕生日だったのを知った時に「ハルヒで誕生日」という安直な図式が脳内を占めまして…
なのでとっくに過ぎてしまっていますが奏さんのお誕生日に捧げつつ
素直じゃないハルヒはキョンの誕生日を祝う時いい口実になるもの見つけたんじゃないかなぁとか思いつつ書きました(笑)
「一度こういう事があったんだから、今日たまたま」的ないい訳を口にしながら祝ってほしいです
たまたま偶然のふりして、おやつとかキョンの好物ばっかりにしてたりしたら可愛いなぁと(笑)