息もできない (キョンハル・恋人設定・旧Web拍手お礼の改訂版)



しばらく妙に大人しかったハルヒが突然足を止め、突然振り返った。

それは前フリがない出来事だったと思う。
だからこそ、その後も続いた突然についていく事ができなかったのだ。

名前を呼ばれたと思ったら、突然引っ張られたネクタイ。
これまでの突然の理由を一瞬でも考えてしまった脳では、それを避ける動きをせよと指令を出してくれなかったようだ。

昔から同時に物事を考えるのは苦手でな。
こんな時までその特徴を示してくれなくてもいいと思うのだが…。

ネクタイが引っ張られて、首が痛い気がする。
けれど、それよりも目の前で伏せられた長い睫毛と触れる柔らかい唇の感触。

『…なんなんだ?』
あまりの突然さに脳が思考を停止でもさせたのだろうか。
妙に冷静になった頭はそんな事を考えたようだ。

その僅かの間に離れた唇に、
「なんだったんだ?」
出てきたのは思いついたそのままの疑問。

突然なのはハルヒらしいが、あまりに突然すぎる。

「…別に…」
頬を赤く染め、視線を外すハルヒ。

しかし、
「さっきのあれか?」
ふと思い浮かんだ問いかけに、
「何よ…」
睨みつけるような視線が返ってきて、それが正解を教えてくれていた。

先程、2人並んでいた時見つけたカップル。
道の真ん中で抱きしめあって、キスをして。

往来のど真ん中でする事としてどうだろうかという疑問は持てど、どうするわけでもない。
どうにかできる問題でもないし、馬に蹴られる気もない。
突っ込もうにも突っ込みづらいシチュエーションであり、注目するわけでもなくスルーして、横を通り過ぎただけだった。

ただ、カップルらしい行動、なのかもはしれなかった。
俺に恋人とは往々にしてああいうものなのだろうか、とぼんやりと思わせるほどには。

そして、俺が思った事をハルヒもぼんやり思ったのかもしれない。

「気になったのか?」
「別にって言ってるでしょ」
どこか怒ったようなポーズに、俺の指摘が正しかった事を知り、更に笑いがこみ上げてくる事を自覚した。

「馬鹿にしてるの?!」
そうして本格的に怒り始めたハルヒに、首を振るしかない。

浮かんできた笑みを抑えるので手一杯だ。

恋愛を一種の気の迷いと言い切り、今まで破天荒な事ばかりしてきたあのハルヒが、だ。
常識の範囲内にある王道、普通に恋愛をして、カップルに憧れるという姿は、本当にただの女子高生にしか見えない。
それも純粋で、真っ直ぐで…。

「お前は、それでいいんじゃないか?」
古泉の戯言とか、長門の役目とか、申し訳ないが朝比奈さんのお役目とかの中心である事なんてどうでもいい。
俺的にはポニーテールにすると魅力度36%増しになる女子にしか過ぎなくて、それで十分じゃないか。

「それ、どういう意味?」
「そのままの意味だ。とりあえずする時はネクタイ放せ。首絞めて口塞がれて、俺を窒息死させる気か」
「窒息するならその時はキョンも同罪じゃない」
そうして俺が未だにネクタイを掴むハルヒの手を解く前に、またネクタイが引かれ軽く首の絞まる感覚。

また首を圧迫されて苦しいような、けどまぁそれもいいかと思えてしまうような、息がつけないくらい胸が締め付けられる感覚。
再び瞳を閉じたハルヒに、結局俺はただ従うしか術を知らないのだ。

* back *


以前のWEB拍手のお礼SSの改訂版です
UPするにあたり、以前のままじゃ短いだろうと加筆を始めた結果、3人称がキョン視点になったりと予想外の変化をしました
カップル設定だからかはわかりませんが、キョンの脳内が無駄に甘い気がします
結局短い事には変わりないのですが…(汗)