消せない名前 (無印ゲーム中・将臣独白)


大事な幼馴染を探して、弟を探して、見つからなくて
探しても探しても、見つからなくて

ここには、有川将臣を知るものがいなくて
ここには、『平重盛によく似た人』しかいなくて

清盛が死んで、平家を守らなくちゃいけないと覚悟を決めて
恩には報いなくてはいけないから
俺は、なりきったつもりだった
なると決めた以上、揺るがせるつもりなんてなかった

自分は還内府平重盛であると

平家が助けてくれなければ、俺は生きてここにはいられなかっただろうから
だから、有川将臣は死んでもおかしくない、もう死んだのと同じなのだと

そう、思っていた

なのに、恨むなんて微塵も思わなかったのだ
俺達平家を追い詰めた源氏なのに
源氏を奮い立たせる象徴であり…何より自分と同じ歴史を知っていたからこそ、こちらの思い通りには行かなかったのは彼女の所為なのに
望美が源氏の大将である義経…九郎といた所為だとわかったのに

それでも、微塵も恨みなんて出てこなかった

ただ、哀しいと思った
戦わなくちゃいけないと思ったけど
恨みも、殺意も、なかった
ただ、戦わなくちゃいけなかっただけ
ただ、平家が生き残るためだけに

でも、同時に嬉しいとも思ったのだ
あいつが源氏で
…これは、有川将臣としての感情だ

あいつと俺と弟が共通して持つ認識
源平の合戦、勝つのは源氏だ
それも、源九郎義経の功績によって

それは今でも変わらないのかもしれない
事実、圧倒的に有利なのは、義経率いる源氏
なら、望美が源氏であれば…生き残る可能性は高い
あいつが平家にいる、何倍も…

その後の義経の道が平坦でないにしろ、少なくともこの合戦のケリがつくまでは安全である確立は高いのだと思える

それを、安心だと思ってしまう
俺は還内府で、源氏は滅ぼす相手で
ならば、源氏が安全であるはずはないのに…

『将臣君』

そう呼んでくる声が
忘れていたはずの感情しか思い出せなくさせてくる

なると決めたのに
なりきると決めたのに
そうなったはずなのに…

還内府はどこにいる…?
還内府と呼ばれる人は、どこにいるんだ…?

『将臣君』

再会できて、もう一度めぐり合えたあの声と、笑顔の前に
還内府なんか、いなかった
抱きしめたあの時、源氏の神子も、平家の還内府もいなかった

決戦の時であるこの場において、尚…

結局、自分は小松内府平重盛にはなれなかったのだ
結局、俺は有川将臣でしかなかった

『待って!まだ…行かないで!』

でも、その声を振り払った

『ここで別れてしまったら…次は…』

いくら望美が言うのをとめたって事実は変えられない

次に会ったら、敵になる
彼女を殺して、そして彼女に殺される

ようやく抱きしめる事ができたのに
ずっと守ってきたのに
ずっとずっと想ってきたのに

抱きしめる事ができた瞬間、もう夜明けが近い…

帰らなければならない場所
それはこっちに着たばかりの時とは違う場所
望美の元じゃなく、見えてくるのは赤に彩られた陣

「還内府殿!」

もう長い間聞いてきた呼び名が、有川将臣を殺しきれなくなったのを実感しながら

「ああ…」

必死に、『俺』の中の還内府を呼び起こした


* back *


3無印にある屋島の闘い後イベントの後のつもり…で将望です
遥か3は将望ラブー!なのです(笑)
遥かは1と3しかやったことがないのですが、1は天真に、3は将臣にはまっております。現代組ラブ
いつか天あか、将望の話を書きたいなぁとかこっそり画策中だったり…(実行できるかはさておき)