(本編前?・那岐独白・シリアス)
いつから、なんて覚えてない。
わざわざ覚えてるような事でもないのかもしれない。
けど、1つだけ覚えているし自覚している事。
子供じみた嫉妬がいかに醜いか。
だからこそ、その醜さを向けられた千尋は僕の分まで幸せになるべきだと思う。
気づいた時には、水辺が怖かった。
師匠と鬼道に使うものを探す時ですら、水辺に近づけなかった。
師匠は「まだ怖いのか」なんて聞いてきたけど、理由なんて僕にだってわかりはしない。
ただ怖いものは怖い。
そして、その要になるのが葦舟というだけの話。
それから少し成長すれば、色んな物事の意味がわかってくるようになる。
葦舟の意味、師匠が僕を隠すように育てていた訳。
師匠がどんどん不幸になる原因。
すべて僕が理由なんだとわかっている。
師匠が死地に送られたのも、目の前で豊葦原が焼け落ちたのだって…その可能性を否定しきれない。
関わったものすべてが不幸になっていく。
存在してはならないのだと本気で思った。
だからこそ、ニノ姫に対する感情はよくなかった。
何故こうも違うのか。
同じ金の髪を持つもの同士。
なのに、何故こうも扱いが違うのか。
姫として守られる生と、流され隠される生。
更に…。
『一方ハ王トナリ、一方ハ贄トナルガ人ノ世ノ定メ』
どこかで聞いた、伝承の言葉。
それは今思えば嫉妬の感情だったんだろう。
混乱の中だったからどうしてだったのか明確にはわからないけど、なぜだか僕まで異世界へ逃れる事になって。
その事実さえ、憎いほどに。
赤を見て豊葦原を思い出して不安定になる千尋の記憶を封じる事になって。
より、その感情は強まった。
僕の持つ霊力が邪魔をするのか。
理由はともかく、僕の記憶は封じられなかったから。
僕自身、どこかなにかが欠けている実感くらいある。
千尋ほど動揺しなかったのかもしれない。
そもそもあいつに頼まれてとはいえ、千尋の記憶を封じるのを手伝ったくらいだ。
だからこそ、すべて覚えている。
炎の熱さ、死を嘆く声、表現できないほどの恐怖の声、師匠の死の報告。
僕に関わったものの不幸な末路すべて。
この目で、この耳で、すべて覚えている。
だから嫉妬した。
すべて忘れて笑っている千尋に。
何で僕だけが。
何で千尋は…。
そう思って突き放そうとしたのに。
『なぎ』
小さな呼び声が、僕の後をついてくるようになった。
鬱陶しくて振り払っても、やっぱりついてくる。
『那岐』
楽しくて仕方がない時、封じられた記憶が感傷を呼び起こす時。
手を握って、僕を必要としてくる。
そんな温かな手と、繰り返される名前。
なぜか全幅の信頼を寄せてくる声に、振りほどく事ができなくなっていた。
手を握り返してしまったから、あの手を失うのが怖くなった。
だから、いつからか思っていた。
僕が師匠から教わった鬼道が力になるなら、それを使おうと。
守られるべき存在である千尋を守るための力として、存在するなら許されるのだろうかと。
そして更に年を取ればわかってくる。
僕の持っていた感情がいかに馬鹿らしく、醜く、愚かか。
千尋は千尋で、王族だからこそ大変だった事だってわかってる。
不幸の度合いは物差しで測れるわけがないんだから、千尋が僕より幸福だった保証もないのに恨むのは逆恨みにも程があるって。
そして嫉妬に囚われた自分の姿や感情がいかに醜いかを。
無知だったからこその馬鹿らしさ。
だからこそ、思う。
千尋は気付いてなんかいなかったかもしれないし、気にしてないのかもしれないけど。
葦舟で流されて、消えるはずだった命を惜しむなんて事はしないから。
僕がやらなければならない役目は、自覚しているつもりだから。
だから、千尋には幸せになってもらいたい。
今まで不幸だった分、負の感情を受けていた分。
そのためなら僕は、出来る限りの事をしよう。
僕自身すら捨てて
死への恐怖や絶望さえも…
* back *
那岐のスチルをジーッと見ていたらふと思いついたので書き殴りに近い勢いで書きました
なんだか将臣でも同じ構成のお話を書いた気がします…(読み返して実感した)
こういうノリ好きなんでしょうね…(遠い目)
で、後書きと言うか言い訳
すごくネガティブなお話ですね
地の朱雀は弁慶と那岐の二人しかやっていないのですが、つくづく自己犠牲や自己批判、自己覚知が強いんじゃなかろうかと。
その結果のお話です
だからこそ嫉妬の感情に対しても、知らなかったからこそやってしまった事に対しても那岐の場合自責の念が強いんじゃないかなぁと
気付いたからこそ「もう繰り返さなければいい」じゃなくて「それに対する罰を受けないと」になっちゃった感じです
それになんだかんだ言って面倒見がいいので、全幅の信頼を寄せてくる千尋を無碍に出来ない気持ちとかもあるのでしょうが…
と、そんなこんなな妄想が形になった結果です、反省
こんなの聞いたら、千尋はものすごく怒りそうですね(苦笑)