(拓珠)
「ふぁ…」
噛み切れなかったあくびと、浮かんできた涙。
涙を拭うついでに目を擦ってみても眠気は一層に去りそうにない。
その時、
「…」
隠し損ねたあくびが聞こえ、無防備な拓磨に珠紀は小さく笑みを浮かべた。
「可愛い、拓磨」
「なんだ、突然」
照れたような、不可思議なような表情に、珠紀はまた笑みを浮かべる。
「眠いの?」
「別に。おまえこそ、だろ」
「ううん、大丈夫…」
否定した瞬間、珠紀が浮かべたあくびに、今度は拓磨が笑った。
「やっぱり眠いんだろ」
言外に休む事を勧められるが、珠紀は首を横に振る。
「だって、せっかく…」
そして辺りを見回した珠紀に、拓磨は小さく苦笑した。
今、宇賀谷の家にいるのは二人だけだ。
いつもは美鶴や守護者の姿がある事を考えれば、珍しいくらいである。
「まぁ、な」
「でしょ?」
「でも、顔が眠そうなんだよ」
拓磨の伸ばした手が、珠紀の頭を撫で、そのまま横になるように促す。
「修業やらなんやらで疲れてんだろ。無理するな」
「じゃあ…ちょっとだけ」
自室へ促すわけではない手に誘われるように、珠紀はその身を横たえた。
楽になった体勢に、目蓋が閉じる事を要求してくる。
「寝てろ」
「でも…」
「ずっとここにいてやるから」
そうして珠紀を甘やかすように撫でる手に、珠紀は逆らい切れずに瞳を閉じた
* back *
自分が眠かった時に書きました
気持ちがいい環境で眠るのって、なんだかふわふわした気分になりますよね、という感じで
…これを書こうとした時は式典の最中の椅子だったので窮屈この上なかったですが…